成人のインフルエンザワクチン
次に、成人について見ていきましょう。CMECジャーナルクラブでは、成人のインフルエンザワクチンのメタ分析はひとつのみです。
アウトカムは?
16~65歳の成人に、インフルエンザワクチンを接種すると、接種なしと比べて、どうなるか、を検討しています。
どうなるか、の部分がアウトカムですが、このメタ分析ではどうなっているでしょうか?
これまでのように、インフルエンザ発症やインフルエンザ様疾患だけではなく、入院、肺炎の研究についても検討しています。
結果を見てみましょう。
インフルエンザ様疾患については、21の研究(ランダム化比較試験)を統合し、ワクチン接種すると20%発症が少ない、という結果になっています。インフルエンザの発症については、17の研究を統合し、61%発症が少ない、という結果です。
ここまでは小児のメタ分析と同じような傾向にあるように思えます。検査で確定されたインフルエンザの発症は60%程度少なくなり、インフルエンザ様症状では20~30%程度少なくなる、という感覚でしょうか。
95%信頼区間
さらにこのメタ分析では入院や肺炎をアウトカムにした研究も分析しています。
入院については5研究の統合で、オッズ比が0.89ということで、11%少ない傾向になっています。
ここでのポイントは、オッズ比の0.89の下にある[0.65~1.20]。これは、95%信頼区間です。
ひとつの研究結果というのは、母集団から対象者という標本を抽出して行った標本調査になります。標本調査の結果は、その抽出した標本の結果ではありますが、母集団そのものの結果ではありません。
そこで、母集団に対して治療を行った場合の「真の値」を統計学的に類推することになります。統計学的に95%の確率で「真の値」が存在する幅を、95%信頼区間として、標本調査の結果とともに示されることが多いです。
このメタ分析の場合、オッズ比0.89ということで、ワクチン接種することで入院が11%少ないという結果が出ていますが、これが標本調査の結果です。オッズ比の「真の値」は0.65~1.20にあるということで、入院は35%少ない、から、20%多い、までの間にある、というふうに読みます。
これではまだ、ワクチン接種によって入院が本当に少ないと断定することができない、という結果です。このような結果のときには、CMECジャーナルクラブでは「少ない傾向にある」という表現を用いています。
肺炎の発症についても同様に、2研究のみの統合で症例数が少ない(分母が3人 対 2人)ですが、オッズ比0.80で95%信頼区間が[0.13~4.93]となっています。ワクチン接種で肺炎が20%少ない傾向にあるが、87%少ない、から、4.93倍多い、の間にあるということになります。
これではワクチンで肺炎が少なくなります、とは断定できません。むしろ、インフルエンザワクチンで肺炎が予防できるかどうかについては、ほとんどまだわかっていない、というほうが表現としては適切かもしれません。
まとめ
- 成人についてもワクチン接種によりインフルエンザ発症は60%程度、インフルエンザ様症状では20~30%程度少なくなる。
- 入院や肺炎については少ない傾向にはあるが、まだ一定の傾向にあるかどうか結論づけることはできない。
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